円高で外国株の含み益が目減りする — 為替差損の考え方
米国株や海外ETFを保有している人なら、一度はこんな経験があるのではないでしょうか。保有銘柄の株価は現地通貨ベースで上がっているのに、証券口座の円換算評価額を見ると、思ったほど増えていない、あるいはむしろ減っている——。これは多くの場合、円高が進んだことによる評価額の目減りが原因です。株価が上がっているのに評価額が減るという現象は、仕組みを理解していないと戸惑いや不安の原因になります。この記事では、なぜこうしたことが起きるのか、簡易的な計算例を使って整理し、これが「含み損」とは異なる性質のものであること、そして対策の考え方をまとめます。
円高で「含み益が目減りする」ってどういうこと?
外貨建て資産、たとえば米国株を保有しているとき、証券口座の評価額は「現地通貨での株価 × 為替レート」で円換算されて表示されます。株価が上がっても、この為替レートが円高方向に動けば、円換算した金額の増え方は鈍くなります。逆に為替レートの動き方によっては、株価が上がっているにもかかわらず、円換算の評価額が取得時点より減ってしまうこともあり得ます。
これは米国株に限った話ではありません。海外ETF、外国株投信、ヘッジなしの外貨建て投資信託など、円以外の通貨建てで運用される資産すべてに共通する仕組みです。円安・円高が株価そのものに与える業績面での影響については円安・円高と株価で別の角度から解説していますが、この記事で扱うのは、業績への影響ではなく「円に換算する評価額」そのものに為替が与える影響です。
具体的な計算例で見る円換算リターン
言葉で説明するよりも、数字で見たほうが直感的に理解しやすいでしょう。ここでは、ドル建てでの株価騰落率と、ドル円の円高進行率を組み合わせた場合の、おおよその円換算リターンを試算します。
計算の考え方はシンプルで、「(1 + ドル建て騰落率) ÷ (1 + 円高進行率) − 1」という式でおおよその円換算リターンを求められます。以下は主なパターンをまとめた早見表です。
| ドル建て騰落率 \ 円高進行率 | 変動なし | 3%円高 | 5%円高 | 10%円高 |
|---|---|---|---|---|
| −10% | −10.0% | −12.6% | −14.3% | −18.2% |
| 0%(横ばい) | 0.0% | −2.9% | −4.8% | −9.1% |
| +5% | +5.0% | +1.9% | 0.0% | −4.5% |
| +10% | +10.0% | +6.8% | +4.8% | 0.0% |
| +20% | +20.0% | +16.5% | +14.3% | +9.1% |
この表を見ると、いくつか重要なことが分かります。
まず、ドル建てで+10%値上がりしていても、ドル円が5%円高になると、円換算のリターンは+4.8%程度まで縮みます。「+10%から5%を引いて+5%」という単純な引き算のイメージに近い結果になりますが、実際には掛け算・割り算で計算されるため、単純な引き算よりわずかに低い数値になる点は覚えておくとよいでしょう。
次に、ドル建てでは横ばい(0%)でも、円高が進めば円換算では確実にマイナスになります。株価が一切動いていないのに、為替の変動だけで評価額が減ることがある、というのはこの表からも読み取れます。
さらに注目したいのは一番右下、+10%値上がりに対して10%円高が進んだケースです。この場合、円換算のリターンはちょうど0%付近まで打ち消されます。株価は確かに上がっているのに、円で見ると「損も得もしていない」という状態になるわけです。
なぜこれは「含み損」ではないのか
ここで整理しておきたいのが、円高による評価額の目減りと、いわゆる「含み損」の違いです。
含み損とは、本来は投資先の株価そのものが取得時より値下がりし、評価額が取得価額を下回っている状態を指します。一方、円高による目減りは、現地通貨ベースでは株価が上がっている、つまり投資先の企業や指数のパフォーマンス自体はプラスであるにもかかわらず、円に換算する段階で目減りが生じているものです。
| 項目 | 純粋な株価下落による含み損 | 円高による評価額の目減り |
|---|---|---|
| 原因 | 投資先の株価そのものの下落 | 為替レートの変動(円換算の問題) |
| 現地通貨建てのリターン | マイナス | プラスの場合もある |
| 円換算の評価額 | 減少 | 円高が大きければ減少することもある |
| 為替が円安に戻ったら | 直接は変わらない | 評価額が回復する可能性がある |
両者を同じ「含み損」として一括りに捉えてしまうと、本来は投資先の実力とは関係のない為替の変動を理由に、慌てて売却してしまうといった判断ミスにつながりかねません。評価額が減っている原因が「投資先の値下がり」なのか「為替の変動」なのか、あるいはその両方が混ざっているのかを切り分けて考える習慣を持つことが大切です。
なお、こうした為替の動きが日本株にどう波及するかについては円安・円高と株価、日本株と米国株それぞれの特徴の違いについては日本株と米国株どっちがいいかでも扱っていますので、あわせて読むと為替と株式市場全体のつながりが見えてきます。
対策1: 為替ヘッジという選択肢
円高による評価額の目減りをできるだけ避けたい場合、代表的な対策の一つが為替ヘッジ付きの商品を選ぶことです。為替ヘッジとは、先物取引などを使ってあらかじめ為替変動の影響を打ち消しておく仕組みで、株価や指数そのものの値動きを円換算リターンに近づけることができます。
ただし、為替ヘッジには継続的なコストがかかり、そのコストは日米の金利差に連動して変動する性質があります。金利差が大きい局面ではヘッジコストが無視できない水準になることもあるため、「円高が怖いから常にヘッジをかける」という単純な発想ではなく、コストとのバランスで判断する必要があります。ヘッジのあり・なしの違いやコストの考え方は為替ヘッジありなしどっちを選ぶで詳しく整理していますので、商品選びの際はあわせて確認しておくとよいでしょう。
対策2: 長期保有でならす考え方
もう一つの考え方は、為替ヘッジをかけずに、長期保有によって為替変動の影響を時間をかけてならしていくというものです。
為替レートは短期的には円高・円安どちらにも大きく振れますが、長期で見れば特定のタイミングだけに評価額が左右されにくくなるという見方があります。特に、毎月一定額を買い付ける積立投資であれば、購入のタイミングごとに為替レートも分散されるため、ある一時点の円高・円安だけに評価額全体が振り回されにくくなります。積立投資の考え方についてはドルコスト平均法でも整理していますので、長期での為替変動との付き合い方を考えるうえで参考になります。
また、オルカン・S&P500のような主要インデックスファンドの多くはヘッジなしで運用されていますが、これは為替変動もならしながら世界経済・米国経済の成長そのものに長期で投資するという設計思想によるものです。円高局面だけを切り取って一喜一憂するのではなく、投資期間全体を通じて評価額がどう推移していくかという視点を持つことが、長期投資では重要になります。
対策3: 円建て資産とのバランスを意識する
三つ目の考え方として、外貨建て資産だけに偏らず、円建ての預貯金や資産とのバランスを意識するという方法があります。
外貨建て資産のみを保有していると、円高局面ではポートフォリオ全体の評価額が目減りしやすくなります。一方で、円建ての資産をあわせて持っておけば、円高が進んだときにその部分の価値は相対的に目減りしないため、資産全体としての振れ幅を抑える効果が期待できます。これは為替ヘッジのようにコストをかけて変動を打ち消す方法ではなく、通貨そのものを分散させておくことでリスクを和らげる考え方です。
自分の資産全体のうち、外貨建てがどれくらいの割合を占めているかを一度確認し、円高が進んだ場合に評価額全体がどの程度目減りしうるかをイメージしておくと、実際に円高が進んだ際も慌てずに対応しやすくなります。
まとめ
- 外貨建て資産は「現地通貨の株価 × 為替レート」で円換算されるため、株価が上がっていても円高が進めば評価額の増え方は鈍る、あるいは目減りすることがある
- ドル建てで+10%の値上がりでも5%円高が進めば、円換算リターンは単純な引き算の+5%よりやや低い水準にとどまる
- これは投資先の株価下落による「含み損」とは原因が異なり、為替レートの変動による評価額の変動として区別して捉える必要がある
- 対策としては、為替ヘッジ付き商品を選ぶ、ヘッジをかけずに長期保有で変動をならす、円建て資産とのバランスを意識する、といった考え方がある
- どの方法を選ぶかは、投資の目的や期間、コストへの許容度によって変わるため、自分の状況に合わせて判断することが大切
円高による評価額の目減りは、多くの場合、投資先の企業や指数そのものの実力が損なわれたわけではありません。仕組みを正しく理解しておくことで、為替による一時的な評価額の変動に振り回されず、落ち着いて投資判断を続けやすくなるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。為替と資産評価額の関係は簡易的な説明であり、実際の損益計算は保有商品や取得時期により異なります。投資判断はご自身の責任で行ってください。
よくある質問
円高で外国株の評価額が減るのは含み損ですか?
厳密には含み損とは区別して考えるべきです。含み損は投資先企業の株価そのものが値下がりして生じますが、円高による目減りは株価が上がっていても円に換算する段階で発生する評価額の変動です。現地通貨建てでは利益が出ていることもあるため、両者を混同すると判断を誤りやすくなります。
ドル建てで+10%でも円高が進むと円換算はどうなりますか?
簡易的には、ドル建て騰落率から円高の進行率を差し引いたイメージに近くなります。たとえばドル建てで+10%の値上がりに対してドル円が5%円高になった場合、円換算のリターンは単純な引き算の+5%よりわずかに低い、+5%弱程度になります。正確な数値は保有商品や計算方法により異なります。
円高による目減りを避ける方法はありますか?
代表的な方法は為替ヘッジ付きの商品を選ぶことですが、ヘッジコストが継続的にかかる点に注意が必要です。ヘッジをかけない場合は、長期保有によって為替の変動を時間の経過でならしていく考え方や、円建て資産と組み合わせて通貨を分散させる考え方が一般的です。
円高が進んでいるときに外国株を売却すべきですか?
円高だけを理由に一律に売却すべきとは言えません。評価額の目減りは為替による変動であり、株価や企業の成長性そのものが損なわれたわけではないためです。売却を検討する際は、為替だけでなく投資先の業績や自身の投資方針・資金が必要な時期などをあわせて考えることが大切です。