代用有価証券の掛け目——「株を担保に入れた」は時価の70〜80%しか評価されない
「100万円の株を担保に入れた」は100万円の保証金ではない
信用取引の保証金として株式(代用有価証券)を差し入れる際、多くの投資家が見落とすポイントがあります。
代用有価証券の担保評価額は時価ではなく「掛け目をかけた金額」です。
100万円の株を差し入れても、担保として評価されるのは70〜80万円。この割引率を「掛け目」(評価率)と呼びます。
掛け目が設定される理由
証券会社が掛け目を設定する理由は、担保価値の急変に備えるためです。100万円の株を担保として100万円の価値で評価していると、翌日急落して80万円になれば担保が目減りして不足します。あらかじめ70〜80%で評価しておくことで、価格変動に対するバッファーを確保しています。
担保の種類別掛け目(一般的な目安)
| 担保の種類 | 掛け目 | 備考 |
|---|---|---|
| 現金・MRF・MMF | 100% | 額面通りに評価 |
| 国内上場株式(一般) | 70〜80% | 銘柄・証券会社により異なる |
| 国内上場株式(制限銘柄) | 50〜70% | 流動性が低い・値動きが荒い銘柄 |
| 国内ETF・REIT | 70〜80% | 種別によって異なる |
| 外国株 | 0〜70% | 受け付けない証券会社もある |
| 外国債券・外国MMF | 50〜70% | 為替リスクも考慮 |
実際の掛け目は証券会社によって異なります。利用している証券会社の「代用有価証券一覧」または口座管理ページで確認してください。
掛け目込みの担保評価——下落時に何が起きるか
前提:
- 保有株式(時価): 100万円
- 掛け目: 70%
- 初期担保評価額: 70万円
- 信用建玉: 100万円(初期維持率: 70万÷100万×100 = 70%)
この状態から株価が下落した場合:
| 下落幅 | 株式時価 | 担保評価額(×70%) | 建玉評価損 | 実質保証金 | 建玉時価 | 維持率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0% | 100万円 | 70万円 | 0万円 | 70万円 | 100万円 | 70.0% |
| −5% | 95万円 | 66.5万円 | 5万円 | 61.5万円 | 95万円 | 64.7% |
| −10% | 90万円 | 63万円 | 10万円 | 53万円 | 90万円 | 58.9% |
| −15% | 85万円 | 59.5万円 | 15万円 | 44.5万円 | 85万円 | 52.4% |
| −20% | 80万円 | 56万円 | 20万円 | 36万円 | 80万円 | 45.0% |
| −25% | 75万円 | 52.5万円 | 25万円 | 27.5万円 | 75万円 | 36.7% |
| −29% | 71万円 | 49.7万円 | 29万円 | 20.7万円 | 71万円 | 29.2% ⚠️ |
| −30% | 70万円 | 49万円 | 30万円 | 19万円 | 70万円 | 27.1% |
追証ライン30%に到達するのは約−28〜29%の下落です。
初期維持率70%でも、-29%という比較的深い急落で追証になります。
「二重の目減り」が追証を加速させる
掛け目がある代用有価証券の場合、株価が下落すると2つの経路で同時に保証金が目減りします:
① 担保評価額の低下 株式時価が下がると、担保評価額(時価×掛け目)も比例して下がります。
② 建玉の評価損 建玉の含み損が保証金から差し引かれます。
この二重の目減りが、以前の計算記事で示した「代用有価証券モデルの非線形悪化」の実体です。現金担保であれば①は発生しない(現金は株価が下落しても価値が変わらない)ため、代用有価証券を使う投資家ほど急落時のリスクが高くなります。
「維持率70%」の錯覚
初期維持率70%というと「かなり余裕がある」と感じるかもしれません。しかし掛け目70%の代用有価証券を使っている場合、この70%は「100万円の株を70万円として評価した結果」に過ぎません。
同じ70%でも中身が違います:
| 初期維持率70% | 下落-29%で | |
|---|---|---|
| 現金70万円を保証金 | (70-100×0.29)/(1-0.29)≈57.7% | 余裕あり |
| 100万円の株(掛け目70%) | 70% | 追証直前(約30%) |
表面の維持率が同じでも、代用有価証券の割合が高いほど急落耐性は大きく低下します。
掛け目を考慮した余裕の設定
掛け目込みで考えると、代用有価証券を主体にする場合は維持率にさらなる余裕が必要です。
追証ライン30%に対して維持率30%超を余裕として維持するためには、実効的な余裕幅(維持率から追証ラインを引いた値)を大きく取る必要があります。
目安として、代用有価証券が主体の場合は:
- 維持率60%以上を維持(追証ラインより30ポイント以上の余裕)
- 現金と代用の比率は現金を少なくとも30%以上確保
という設計が安定しています。詳しくはポートフォリオ設計の記事を参照してください。
口座画面での確認方法
証券会社の口座管理画面で確認できる主な項目:
| 表示項目 | 意味 |
|---|---|
| 委託保証金現在額 | 掛け目適用後の保証金合計(現金+代用評価額) |
| 代用有価証券評価額 | 時価×掛け目 の合計 |
| 委託保証金率(維持率) | 委託保証金現在額 ÷ 建玉評価額 × 100 |
| 追証発生ライン | 証券会社が設定した閾値(通常20〜30%) |
「委託保証金率」として表示されている数字は掛け目を反映した後の数字です。ただし株価が下落すると代用有価証券分の評価額も下がるため、翌日には数字が変わっていることを念頭に置いてください。
急落が起きた翌朝は、市場が開く前に必ず維持率を確認する習慣をつけておくことをおすすめします。
関連記事:何%の下落で追証になるか——代用有価証券モデルで全パターン計算してみた
免責事項: 本記事は筆者個人の見解をまとめたものであり、投資助言や売買推奨を行うものではありません。信用取引には元本を超える損失が発生するリスクがあります。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。